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前川國男自邸
皆さんこんにちは
先日、江戸東京たてもの園を訪れ、前川國男自邸を見学してきました。工務店を経営する身として、この建物から学ぶことは非常に多くありました。
前川國男という建築家をご存知でしょうか。新潟市中央区出身で、フランスに渡りル・コルビュジエの事務所で修業を積んだ方です。帰国後は国立国会図書館など多くの名建築を手がけました。実は私、サラリーマン時代に前川事務所が設計した新潟市美術館の改修工事に携わったことがあり、外壁のタイルは全て特注で焼いて作られたと聞きその設計のこだわに感銘を受けていました。
この自邸が建てられたのは1943年、太平洋戦争開戦の翌年です。今では想像もできませんが、建築資材が極端に不足していた時代でした。そんな中で前川さんは工夫を重ね、この住宅を完成させました。
特に印象的だったのは、建物の中心にある丸柱です。実はこれ、電柱を使っているんです。当時は木材も鉄材も手に入りにくく、やむを得ない選択だったのでしょう。しかし、実際に見てみると、この電柱が空間にしっかりとした軸を作り出していて、決して安易な代用品という感じではありません。
家づくりをしていると、お客様の「やりたい事」と「予算」のバランスをとる事に頭を悩ませる事があります。前川さんのこの住宅は、まさにその答えを示してくれています。材料の制約があっても、設計の工夫次第で質の高い空間は作れるということです。
80年以上前の建物ですが、今見ても古さを感じません。むしろ、現代の住宅にも十分応用できるアイデアがたくさん詰まっています。窓の配置による採光の工夫、無駄のない動線計画、そして何より住む人のことをしっかり考えた設計。これらは時代が変わっても変わらない、住宅づくりの基本だと改めて感じました。
最近は高性能な建材や最新の設備機器が次々と登場し、それらを使うことが良い家づくりの本質と思われがちです。もちろんそれらも大切ですが、前川さんの自邸を見ていると、本当に大切なのは住む人の暮らしを豊かにする空間を作ることだと思いました。
限られた予算や条件の中でも、設計の力で素晴らしい住まいは作れる。前川國男自邸はそのことを教えてくれる貴重な建物です。これからの家づくりにも、この精神を活かしていきたいと思います。
江戸東京たてもの園に足を運ばれる機会があれば、ぜひこの住宅もご覧になってください。何か発見があるかもしれません。
野口