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コラム 2026.01.08

揺れと共に生きるー建築が守るもの

コラム投稿23

 202616日の朝、島根県東部を震源とするマグニチュード6.4の地震が発生した。鳥取県と島根県では震度5強を観測し、落石や道路の亀裂、負傷者も出た。年明け早々の揺れに、多くの人が不安を覚えたことだろう。


 地震大国と呼ばれる日本で暮らす私たちにとって、揺れは避けられない現実だ。しかし、私たちが普段何気なく暮らしている建物は、実は目に見えないところで私たちの命を守り続けている。今回の地震を機に、建築と地震の関係について考えてみたい。


建物が「揺れる」ことの意味

 「地震に強い建物」と聞いて、多くの人は頑丈で絶対に壊れない建物を想像するかもしれない。しかし、現代の耐震建築の考え方は少し違う。実は、建物はある程度揺れることで地震のエネルギーを逃がし、倒壊を防いでいるのだ。 これは柳の木が強風でしなることで折れないのと似ている。完全に固めてしまうと、かえって力が一点に集中して壊れやすくなる。建築の専門家たちは、地震の揺れを建物全体で受け止め、分散させる仕組みを長年研究してきた。 日本の耐震基準は、大きな地震が起こるたびに見直されてきた歴史がある。1981年には「新耐震基準」が導入され、震度6強から7程度の地震でも倒壊しないことが求められるようになった。さらに1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災を経て、基準はより厳しく、より実践的なものへと進化してきた。


地域ごとの「揺れ」を知る

 興味深いのは、日本全国どこでも同じ建て方をしているわけではないということだ。地域によって地盤の硬さや想定される地震の種類が異なるため、建築基準も地域特性を考慮している。 たとえば、新潟県のような軟弱な地盤の地域では揺れが増幅されやすいため、地盤改良や杭基礎など、より慎重な対策が求められる。一方、岩盤が固い地域では揺れは小さくても、短周期の激しい揺れが建物に大きな負担をかけることがある。島根県東部は比較的地震が少ない地域とされてきたが、今回の地震は「想定外」の場所でも大きな揺れが起こりうることを改めて示した。 建築家や構造設計者は、その土地の地質データや過去の地震記録を細かく分析し、その場所に最適な建物を設計している。私たちが気づかないうちに、建物は土地の個性に合わせて作られているのだ。


古い建物とどう向き合うのか

 新しい建物は最新の基準で建てられているが、問題は古い建物だ。1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物は、まだ日本中に数多く残っている。これらすべてを建て替えることは現実的ではない。 そこで注目されているのが「リノベーション」による耐震改修だ。建物の骨組みに補強材を追加したり、揺れを吸収する装置を設置したりすることで、既存の建物の耐震性を向上させることができる。費用は新築に比べて抑えられ、思い出の詰まった家を守ることもできる。 リノベーションでは、耐震性能を向上させながら、同時に間取りを現代の暮らしに合わせて変更したり、断熱性能を高めたりすることも可能だ。古い家の良さを活かしながら、安全で快適な住まいに生まれ変わらせることができる。一方、新築の場合は最初から最新の耐震基準をクリアし、敷地の条件に合わせた最適な設計ができるという利点がある。 また、木造住宅では壁の配置バランスが重要になる。片側だけに壁が集中していると、地震の際にねじれが生じて倒壊しやすくなる。専門家による耐震診断を受けることで、自分の家の弱点を知り、適切な対策を取ることができる。


これからの建築が目指すもの

 技術の進歩により、建築の可能性はさらに広がっている。免震構造や制震構造といった高度な技術を使えば、地震の揺れをほとんど感じないレベルまで抑えることも可能になった。超高層ビルでこうした技術が使われているのを見たことがある人も多いだろう。 しかし、最先端の技術だけがすべてではない。伝統的な日本建築の知恵、たとえば石場建てと呼ばれる柱を石の上に載せるだけの工法は、揺れに合わせて建物が動くことでエネルギーを逃がす仕組みを持っている。古い知恵と新しい技術を組み合わせることで、より良い解決策が生まれることもある。 そして何より大切なのは、建物だけでなく、暮らし方全体で地震に備えることだ。家具の固定、避難経路の確認、備蓄品の準備。建物が私たちを守ってくれる間に、私たち自身が次の行動を取れるようにしておくことが重要だ。


揺れと共に生きる知恵

 島根の地震は、私たちに改めて問いかけている。この地震列島で、私たちはどのように暮らしていくべきなのか、と。 答えは、地震を恐れて萎縮することでもなければ、無関心でいることでもない。建築という技術が積み重ねてきた知恵を信頼しつつ、自分の住まいの特性を理解し、できる備えをしておく。そして地域で支え合い、いざという時に助け合える関係を作っておく。 建物は、ただの箱ではない。そこには設計者の思い、職人の技、そして地震という自然現象と向き合ってきた日本人の知恵が詰まっている。私たちの安全を守る建築という技術に思いを馳せながら、揺れと共に生きる覚悟を新たにする。それが、この地震から学ぶべきことなのかもしれない。


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